私はグラフィックデザイナーという特殊な仕事をしてまいりましたが、特殊な仕事であるからこそ大切にしてきた仕事術がいくつかあります。
そのひとつに「仕事は完成度6割程度で方向性を確認する」というものがあります。
なぜ6割なのか?どうして9割以上しっかり作り込んでから確認しないのか?6割の完成度で確認するメリットなどをご紹介したいと思います。
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時間という有限な材料を意識する
よく「時間は限られた資産である」といわれます。
主に資産運用やお金持ちに必要な定義として使われます。
例えば、移動に徒歩30分かかるところをタクシーを使って10分かからず目的地に到達することを「時間をお金で買う」と表現したりします。
歩いて30分消費してしまうところを多少のお金を支払って10分かからず到着し、浮いた20分以上を有意義に使い成果を出せ、という意味です。
それだけ「時間」というものがいかに大切かという戒めが浸透している証でしょう。
その大切な「時間」を有意義に大きく成果を出すための仕事術として重要なワードのひとつが“完成度6割”と思っています。
仕事をしていると業務を単独で行うことも多いと思いますが、「仕事の効率・成果」と「完成度に対する責任感」を混同されがちです。
特に日本人は完璧主義を求める傾向にあり未完成なものを確認すると「もっとしっかりやれ」と叱られたりしますが、私は全てに当てはめるのは間違っていると思います。
例えば行程1から10ある作業を与えて、作業方法を教えて目の前ではしっかりと作業できたとします。
しかし、ひとりで作業を始めた途端に行程1の作業を間違えてしまい他の行程10までは出来たとしたらどうなるでしょうか。
そのまま100個分の作業を終えたとしたら100個全てが無駄になってしまいます。
反省点としては、ひとりで作業させた後も何個か完成させるまでは見守り、間違っている時だけは指摘するべきだったとなるでしょう。
こういったことは仕事に慣れて単独で行っていても往々として起こることだと思います。
特に私のようなグラフィックデザイナーの仕事は数日かけて案件を作成することが日常です。
上司やアートディレクターのような立場の人は忙しく、複数人を監督して複数のプロジェクトを動かしていることが多いですから何度も細かく意見を聞いているとデザイナーも含め双方の仕事が全く終わりません。
デザイナーはプライドが高かったり偏屈な人間も多いので、「自分がこう作る」といった意思で最後まで作り込んでいきます。また業種の傾向からも「クリエイターなのに甘えるな」という考えや空気があったりします。
上手く案件にマッチした絵柄や訴求内容になっていれば良いのですが、ディレクターの思っていたような完成形になっていないこともあります。
稀にディレクターが除外した案がクライアントにとって採用したいものだったりということもありますが、基本的にディレクターも経験を積んでその立場にいる方なので判断が適切であることが多いです。
社内や制作チーム内で再案を繰り返していると、納期が危うくなってきます。もしかすると提出前夜に確認して、最終確認のつもりが上部の指示でひっくり返る場合もあります。
そうなると作業していた時間が無駄になります。
時間は戻ってきません。
納期は刻一刻と迫ってきます。
もちろん、デザイナーという仕事をやる以上は「ひとりでやりきる」「他者に依存して甘えない」という部分がなければ出来ません。料理人が「ちょっと炒める行程だけ先輩やってくれないですかね?」なんてしょっちゅう言ってたら何でその仕事に就いているのかという話になります。
時間は仕事のための材料です。
他に変えの効かない唯一で有限のものです。
単なる材料ですが不可欠な材料です。
ではどうすれば良いのか?
まず完成度6割を目指す
方法のひとつに本題「完成度6割」というキーワードを使った仕事の方法があります。
端的な例を示します。
テストの点数で20点から60点に上げることと、60点から100点に上げるのは同じ労力・時間でしょうか?
同じ40点を上げるという目的ですが、20点はそもそも勉強をしていない域です。60点は基礎問題や知識はあるけれど応用問題になると実力が足りないといったレベルです。
揚げ足はいくらでも取れます、「20点のほとんど分かってない人間よりも、60点を取れる人間が100点を目指す方が可能性がある」とか。
でも現実的に自分のテストの経験で考えてみると、60点を100点に上げるためには相当の努力と時間が必要になると思うのです。ケアレスミスは許されません、90点になったとしても10点のために全体を何度も勉強し直さないといけない。
20点を60点に上げるのに30時間必要なら、60点から100点を目指す勉強は100時間必要だったりすると思います。
それだけ詰め作業、追い込み作業には時間がかかるものですので、仕事においても詰め作業などを繰り返していると時間が追いつきません。
デザイナーで言いますと、それぞれの画像や背景そして文字を置いて実際の材料でデザイン性が分かれば完成度6割と思っていて、これを目指して作成しその段階で確認することが効果・効率においてとても優秀でした。
細かなテキストは実際の分量だけ見積もってダミー文字、人物画像はキレイに切り抜き作業をすると1時間のところを5分程度で簡略的に、タイトル文字や背景は全体の構成とデザイン性が見える段階といった感じです。
その段階で確認すれば、そもそも打ち込みが不要なテキストが発生したり、違うアングル画像に差し替えるなどの作業時間も大幅に短縮されます。
手書きラフや構成案とは違うカンプ作成の段階の行程ですね。
つまりブラッシュアップや詰め作業みたいなことを省いて確認する感じです。
同じような手法で確認されるイラストレーターさんがおられました。
下書きで構成やポージング・テイストを確認したら、実データの仕上がりは細かなディティールを詰めずに6割超え程度で「途中経過ですが、いかがでしょうか?」といった具合に送ってくださいます。
こちらもデザイン面を並行作業で作成していたりしますので、仮にレイアウトへ配置することによって細かな問題点や修正点の希望を伝えることも出来ます。
これが企画書であれば、実際の数字を配置したり細かな言い回しを何度も修正する前に、概略が分かる完成度6割で確認することも有効な手段かと思います。
企画書全体の流れが分かり、各タイトルが分かり、グラフやデータをどういったものが配置されるか、、、完成度6割をどこに置くかによっても違ってくるとは思いますが、ある段階でしっかりと確認するのです。
3ページ目と4ページをまるまる差し替え、9ページからこの統計を持って来てここに入れる、9ページ目には6ページ目参照にする、、、なんてことがあっても作成労力と時間を最小限に抑えることができることでしょう。
完成度6割確認の実践
ここまで説明した完成度6割の物事も確認しなければここで留めた意味がありません。
しかし、今まで完成形で確認していた相手に対し、いきなり途中経過を見せたとしてもおそらく上手くいきません。
きっと「中途半端なモノを見せてくるな、こっちも忙しいんだ」と叱られたりします。
私の経験で言いますと「うーん、この状態で見せられても完成型が分からないな」といった感触です。
残念ながら、いきなりは難しいことが多いです。
理由としては、相手もこちらも慣れていないということが多いように感じます。
私の最初の確認相手は担当営業でした。こちらは完成型の6割と思っているのですが力の入れる部分が多少ズレたりしていて、相手はその後の展開のイマジネーションができなかったように思います。
よって、最初は違うアプローチが必要になってきます。
初期段階と8割完成型で確認する練習が一番良いかと思います。
初期段階での確認とは、手書きメモでレイアウトや要素を確認するレベルと思っています。リスニングして自分の頭で考えてアウトプットだけをする。実際の行程に入る前の最初の確認です。(ラフサムネでブレーンストーミングみたいにアイデアラッシュさせたものをディレクターやデザイナー同士では日常的に行ってたりします。私の場合はやったことのない相手への確認も始めてみました。)
企画書で言いますと、ページ構成とタイトルそして口頭でテキストやグラフにどういったものを入れるか概略を確認する感じでしょうか。
これは地図の方向を確認するような作業です。6割確認するのも同じくベクトルを確認しているだけで答えを求めるわけではありません。
日本から船でアメリカ西海岸に向かうとしてルート確認、南に向かおうとしていたら「そっち行くと何もないかインドネシアとかオーストラリアだから違うんじゃないか?」っていう確認です。少しでも西に向いていたら「逆方向だよ」と聞くようなこと。目的地がモスクワと思っていたら、そもそも話を聞き間違えています。
8割確認とは同じようなことで目的地近くで「この方向で合ってますでしょうか?」といったことです。メキシコの西あたりにいたら「近いけどもう少し北方向だよ」、と。
完成型の確認だと、南米ペルーに着いたなら距離は少し遠いけど修正で済みます。インド西部に着いてしまったら丸々やり直し、スタート地点から再出発した方が早いくらいです。初期に確認していないとこういったこともあるかも知れません。
相手よりも自分を見直すことが大切
完成度6割を語ってまいりましたが、別に5割でも7割でも良いと思います。
ここまで読んで気づいた方も多いと思いますが、肝心なコトは“モノゴトのベクトルを途中で確認する”ということなんです。
完成度6割というのは目安であって、重要なのは目的地への方向の舵取りなんですね。
初期確認が必要無いのであればそのまま発進しても良いですが、途中で位置の確認を客観的に行ってもらった方がスムーズに動くことも多いと思います。
自分に備わった方位磁石がこわれてしまう場合もあるでしょうし、間違った指針を頼りにしてしまっているかも知れません。そこで途中の意見を聞くわけです。灯台守や管制官が多くの間違ったアドバイスをするでしょうか? 彼らも人間ですからミスもあるでしょうが、頼りにすべきところは頼っても良いと思います。ただし目的地へ向かうのは自分です。自力も必要です。
相手との関係性に左右される部分も大きいことも事実です。
初期で確認、2割、3割で確認しても良い関係性もあるかも知れませんが、おおまかに6割程度であれば確認しても失礼で無いような気がします。
なぜなら、確認する相手がいるのであれば、何かしら自然と利益共有体であるはずだからです。
会社という共存の場所なのか、プロジェクトチームなのか、委託された運命共同体なのか別にしても、相手の方にとって確認することが同じ利益につながるのであれば協力してくれると思います。ただ、あまりに頻繁に確認すると「俺も暇じゃな・・・以下略」となってしまいがちではありそうです。
徒歩5分のコンビニに行くのに30秒ごとに確認するもの大抵の場合は違っています。ただし、1秒を争う状況で10数分間迷っているのにプライドが邪魔をして連絡して来ないのは最悪です。早めに連絡すれば別の人間に向かわせる手段も取れるからです。
私もプロとアマに分類される職種であるため、目的地へ達する見込みが無ければ代役に変えられます。少なくとも多くの社会人の方がそうであるのと同じです。駆け出しの頃は社内の人間と変えられそうな場面もあり、数年経てば他社と変えられそうなこともあって必死にしがみついてみっともなくリトライさせてもらったりしたこともあります。
基本的に相手のせいにしていると上手くいかないことが経験上多いです。
目的地に向かうミッションは自分に課せられたものですし、初期もしくは途中で聞いているのも自分です。そして聞く必要が無いのなら自信を持って目的地に行けば良いだけのことだからです。
しかし、アメリカ西海岸に向かうという分かりやすい目的ならいいですが、未開の地、つまり誰も答えを知らない目的地を目指さないといけないことが仕事にはよく出て来ると思います。
デザインの提案、企画書の立案、新商品の開発、いろいろありそうですね。
上司や責任者はいくつも無人島へ到着した(させた)経験則があって、「おそらくこういう方法だったらイケる」という嗅覚や判断力に長けていると思うのです。だからこそプレイヤー側というか、自らが実務を行う立場にあるならば意見を効果的な方法で聞いた方が良いとも思います。そのための完成度6割確認でもあります。
ただ、クライアントやお客様に直接聞ける人間関係というのは少ない実例しか見たことは無いので、可能かよく分かりません。
何より大切なことは、上手くいかない場合は自分が取っている方法か、タイミングか、取る相手か、そもそも取ろうとすること自体が間違っている場合、こういうものだと思われます。
落ち込んでいる相手に何でもかんでも励ませばALL OK!とはならないことと似ているような印象です。
「完成度6割で確認が必要であれば確認してくる人間に任しているので安心」という風に相手方に思ってもらえればしめたものです。次からは全く初確認の相手でも、上手に確認できる自分に成長しているかも知れません。
まとめ
ホウレンソウという用語がありますが、報告・連絡・相談というものはすごく重要です。
これは部下(実務者)の立場では分かりませんが、何らかの使用者・責任者の立場にいるとホウレンソウが無いことがどれだけ深刻な問題か分かると思います。
人間はコントロール出来ないことに対して不安や恐れ、怒りを覚えます。
経理の人に支払いを頼んだのに相手方から問い合わせが来てから「あそこはまだ期日前でしたので来週末に回しましたよ」なんて勝手な判断をされたらどうでしょう?ありえないですし、「それなら言えよ!」となります。
相手方に大きな発注があって一旦支払いを清算してからでないと売掛が大きすぎて受けてもらえないかも知れません、先々で割引をするので資金繰りのために至急支払いを頼まれたのかも知れません、上部なりの意思があって頼んでいるのかも知れないのです。
同じように何かを頼む側、割り振る側は「こういう働きをしてくれるだろう」という予測値で動いています。
「100という実力を持っているから、60から130くらいの成果は出してくれるだろう。60であれば自分が動いて90以上にしないと格好つかないな」といった具合です。
得手不得手、好不調や状況の流れで結果が上下に触れることを良く知っているのです。
仮に納期に厳しそうなら何が何でもやらせる方策を考え、無理なら他のスタッフか自分か外注を使ってでも成立させるくらいの予測は立てているものです。どうやっても無理なら“無理という判断”をします。判断をした時点で相手方に交渉したりです。
見当違いの目的地に着いてから「これからどうしましょう?」と途中のホウレンソウが無いのに結果の尻拭いだけ任されるのはいたたまれないと感じるはずです。コントロール出来ていたはずなのに個人の勝手な判断「相談しづらいからやめとこう」という程度のプライドで予定が狂うのはつらいのです。もちろん良き結果だけ残してくれるなら必要最小限で問題になりませんが、常に好成績は難しいものです。
2人以上いれば組織、案件に携わればチームです。私のような超小規模のコミュニティーが多い世界でもこういう場合が発生することもあります。私自身も超小規模な世界で仕事をしてきて、いろいろ経験になりました。
ベクトルの方向性を認識する“完成度6割の確認術”。
気になったら是非小さなコトから運用されてみてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。